coalamogu

~農家一年生とゆかいな仲間たち~

エビフライ事件

世の中には2通りの人間がいる。

片づけられる人。片づけられない人。

わが家のばあちゃんは間違いなく、後者だ。

 

築40年の秋田、県南にある民家へ夫と二人東京から移り住んだ。

一歩外へ出るとそこには秋田富士こと鳥海山。周りは山に囲まれ、雄大な雪景色が広がる。朝5時、氷点下マイナス5度。今日もすっかり冷え込んでいる。

私の母の実家は農業を営んでいる。SEだった夫は夏休みに訪れてから、すっかりこの土地の虜になり、東京での生活に別れを告げ、「跡取り」としてここへやってきた。祖父母と叔父夫妻、猫一匹。そんな中へ都会人2人。

この家の主は御年82歳になるばあちゃん。今まで「独裁者」として一家を取り仕切ってきた。歳のせいなのか、素質なのか掃除がとにかく嫌い。そのため、あらゆるところに「お宝」が眠っている。棚からぼたもちではないか、床下から包丁。鍋から靴下。まるで殺人の証拠隠ぺい。

たんすの引き出しからは1円、5円、10円と小銭がチャリンチャリンと音を鳴らす。どうやらこの家には打出の小槌が存在するらしい。

広さ12、3畳ほどの台所には冷蔵庫が2台ある。一つ目は比較的新しい・・・といっても20年ものの白い冷蔵庫。もう一つは30年ものの、緑色の冷蔵庫。後者は電源を切られ、すっかり置物となっていた。いつも気になって扉を開けようとするのだが、その度に強い口調で「ダメだ」と頑なに注意された。

開かずの扉が開かれることは無かったが、ついにその時が来た。

引越業者が私たちの荷物を届けてくる日、同時にその冷蔵庫も引き取ってもらうことになった。さすがに、この状態で業者へ引き渡すのは良心が痛むため、最低限、中の掃除だけはすることにした。恐る恐るその扉を開けると、無言でその扉を閉めた。

 

不意を衝かれ、絶句した。

 

ギュウギュウに詰めこまれた冷蔵庫。緑、いや、黒がかったカビの海が一面を覆い、液状化した何だかわからないエキスが冷蔵庫のポケットの底にへばりついている。そして、極めつけはその異臭。納豆を100年くらい発酵させ、密封し、ついでに腐った魚も一緒に入れていた容器を開けたようなにおい。(納豆ファンのみなさまには申し訳ない)

賞味期限が20年過ぎた肉団子、化石化したご飯のお供、12年以上も前の風邪薬・・・。たわしでその壁をこすろうとすると、たわしが汚れるから使うな!という始末。手伝いに来ていた私の母も自然と熱が入る。戦いも終盤に差し掛かったところ、壁に不自然な突起物を発見。ごしごしこすってみると、その突起物がひっくり返って落ちてきた。

賞味期限1999年6月16日。

食品トレイに乗ったエビフライ5匹1パック。きれいに肩を並べている。賞味期限は17年前の私の誕生日。アクロバティックにエビフライが突如壁に引っ付くわけではないし、いくら考えてもどうしてそうなったのか思いつかない。

祖父、夫、母、私。大人4人がかりで丸三日。ようやく普通に使える状態に。

元凶となった独裁者は台所の様子を外から眺めてはすれ違いざまに「おそうじ、おそうじ」と口ずさむ。

独裁者との戦いは始まったばかり