coalamogu

~農家一年生とゆかいな仲間たち~

サラリーマンからの転身

「よいしょ、よいしょ」

じいちゃんにならって雪かきしているわが夫。

スイスイと雪の中をかき分け、次々と軽やかに雪を投げて行くじいちゃんに比べ、夫の作業効率は半分以下。おまけに雪にすっぽりハマリ、救助にじいちゃんの手を煩わせる始末。

夫が農家をやりたいと言い出した時、耳を疑った。阿佐ヶ谷のこじゃれた居酒屋のカウンターで決意表明をされた時、慎重すぎる夫が考えに考え抜いた結果だと思い、ただ、ただ、うなずくしかなかった。

横須賀育ちの夫の身近に大根やスイカなどで有名な三浦半島があったものの、サラリーマン家庭に生まれ、農業とは無縁の生活を送っていた。

社会人になってから「美味しんぼ」にはまり、一緒に生活を始めたころ新居に段ボール何箱分の美味しんぼ持ち込まれた時は驚いた。ただのグルメ漫画ではなく、その料理や食材の背景まで、実際の取材に基づいて書かれている。また、地域の郷土特集ではちょっとした旅行気分も味わえる。だからただの「漫画」ではなく、彼にとっての愛読書。「美味しいものを探すヒントになる」と語る。

初めてのデートは山梨でぶどう狩りとウィスキー工場見学。京都ではおばんざい、静岡では生しらす。遠出できないときはスーパーめぐりをし、販売しているものや値段の違いを観察することが多かった。ただ、これだけ食に対する思いが強い割には、肉を焼けば焦がすし、スープを作れば生臭い。一度彼の手料理を食べ、数日嘔吐と下痢に襲われて以来、キッチン出入り禁止にした。

初めて秋田を訪れ、自家製のお米を食べた時、そのもっちりとした食感と、かみしめた時のほのかな甘みに感動。自慢のスイカも真っ赤に熟し、みずみずしい。滝のように滴り落ちる果汁。そして一つ一つ粒が大きく、うまみが凝縮された枝豆。

東京に帰ってからもその美味しさを忘れられず、この味を守りそしてより良いものにしていきたいと決心。都内で開催された農業人フェアで確信。勢いそのまま、地域で募集していた農業研修に応募し、合格。そんなこんなで今年の4月から晴れて地域で主催している農業研修生となることが決まった。

ところが、2月は真冬。しかもかまくらで有名な豪雪地帯。冷え性の彼には寒さが堪える上、慣れない雪かきにあくせく。雪をかけばスポリとハマリ、ばあちゃんに爆笑される。早くも現実の厳しさの洗礼を受けている夫であった。