がっこさんの有効活用
燻製小屋が何棟も連なり、屋根の方は真っ黒。
香ばしいかおりがあたり一面を埋め尽くす。
スモーク大根。
すなわち、「いぶりがっこ」の工場である。
ご近所さんからいぶりがっこ用の大根を頼まれ、視察にやってきた。
「いぶりがっこ」とは燻製したがっこ(漬物)のことである。
漬物として使う干し大根が凍ってしまうのを防ぐため、大根を囲炉裏の上につるして燻し、米ぬかで漬け込んだ雪国秋田の伝統的な漬物。同じ大根の漬物でも「たくあん」とは違ったうまみがある。噛めば噛むほど燻製の香りが口いっぱいに広がり、パリッパリッとした食感を楽しむことができる。ごはんのお供はもちろんのこと、お茶、日本酒、ワインなどにも実によく合う。燻製に使う木の種類、たとえば、桜やナラなどによって香りが変わってくるという。漬物全般が苦手な夫でも香ばしい香りと食感にすっかり虜になった。
いぶりがっこはまるまる一本真空パックで販売されているものが多いが、最近では小分けされたものや、食べきりパック。また、大根ではなくにんじんも販売されている。いぶりがっこそのものももちろん美味しいのだが、中でも、帰りに立ち寄った道の駅で販売していた「秋田いぶりがっこチップ」がおすすめ。
「いぶりがっこチップ」はいぶりがっこを薄くスライスして揚げたものでも、いぶりがっこの味だけするものでもない。馬鈴薯澱粉に細かくきざんだいぶりがっこを加え、油で揚げる。サクサクとした食感。口に入れたときにすぐ感じないが、噛んで行くとほのかにいぶりがっこを感じることができる。主張しすぎない、けれどもきちんと裏で主人を支えるよくできた奥さんというところだろうか。となりのおばちゃんは、あまった切りはしの有効活用だとも言う。
うん、うまい。
今度お土産に買おう。
工場の感想よりも、チップのことで頭いっぱいな帰り道。