coalamogu

~農家一年生とゆかいな仲間たち~

鼓動

「あー、元気に動いてますね」

近所の産婦人科の診察室の画面でパチパチと点滅するわが子の心臓を差しながら先生は語った。
足を全開に広げ、恥じらいをよそに食い入るように画面を見つめた。

「はじめて見た時は感動して涙が止まりませんでした」

などの体験談を風の噂で聞いていたが、涙はおろか、私は画面を見つめてはただ「ほーっ」と発するだけ。

あとに2~3週間すれば、出産予定日が確定するんでまたきてくださいと先生。

診断結果、妊娠7週。

旅行会社で働いていた頃、ストレスと不規則な生活がたたってか、原因不明の吐き気、めまい、頭痛に一年ほど悩まされた。
パソコンの画面を見ていると気持ちがわるくなり、見ていられない。まるで船酔い状態。食事も喉を通らず、げっそりと痩せこけた。内科へ行っても、胃カメラ飲んでも原因不明。最終的には心療内科を紹介され、めまいや血圧、吐き気や不眠やらに効くとされる薬を大量に処方された。そして、行くたびに薬は増えて行った。

だが、飲み続けても、一向によくならず、病院へ行くのが面倒になった私は行くのやめた。

病院に通うのは元気と根気がいる。

薬をやめてから程なくして嘘のように私の体調はみるみる良くなった。

内科の先生が見立てた通り、どうやら「精神的な」ものが原因だったらしい。
そう思うと、あれだけ薬漬けだった私が子を授かったのだから実に感慨深い。

夫は研修生として手当ては出るものも、現在私は無職。今までの4分の1の収入で年金や保険、税金を納め、おなかの子を育てて行けるか不安がよぎった。
けれども、「やるしかない、やるしかない」とエコーの写真を握りしめた。

早速帰ってばあちゃんに報告すると、
「猫に襲われたら大変だから、赤ちゃんオリにいれないと!」と冗談を飛ばす。
新人妊婦の心配をよそに、高らかと笑うばあちゃんだった。